ビル事業計画の手引き
目 次 目的と進め方 土地利用計画 建築計画 事業収支計画

事業方式


ビル事業における選定用途や、施設規模が同一であれば、事業手法によりビル事業全体の収入額が変わる事は、理論的にはありません。したがって、事業手法の選択の考え方としては、限られた収入の中で、どこまでを自らが行い、どこまでを共同事業者となるパートナーに任せるか、という選択となります。 事業の鉄則としては、「ハイリスク、ハイリターン」といわれるように、多くのリターン(利益)を求める場合には、経済環境の変化などに対して、事業者自らが責任を持つ考え方が必要です。逆に共同事業者としてパートナーを選び、パートナーと共同で事業を推進しようとすれば、パートナーに対してリスクをヘッジしてもらう代わりに、応分の利益を享受させる仕組みとしなければなりません。リスクを最小限にしようとすれば、利益の額も小さくなる事を認識する必要があります。 ビル事業には大きく分けて分譲事業と、賃貸事業がありますが、そのしくみについては、.事業収支のしくみで詳述しています。

(1)分譲事業方式の分類

@卸売り方式

オーナーにとってもっともリスクがない方法で、売り先を決めてからその要求に応じて建設事業を行う方式です。

A事業委託方式

売り先は決まっていないものの、事業代行者に事業全体の推進を委託し、事業受託者のリスクで事業を進めて行く方式です。この場合の事業意思決定の大半は、事業受託者に委ねられることになり、最終売り値から算定される土地費の価額や、事業受託者の得る販売経費、利益額等を確認してから事業を進める必要があります。

B販売委託方式

分譲事業のうち、販売のみを専門業者に委託する方法です。この場合の販売リスクは、オーナーが持つことが原則になり、主体的な事業計画が必要となります。


(2)賃貸事業方式

@一括借り上げ方式

分譲事業における卸し売り方式と同様です。ビル全体を借り上げるデベロッパーとの話し合いで、事業の条件を作り上げます。商業系に多くみられます。

A事業委託方式

デベロッパー、建設会社などが土地所有者から委託を受け、企画、建設から、賃貸までを、一括して代行する方式です。手数料などが差し引かれるため、土地所有者の収入は少なくなります。また、土地所有者の事業リスクを回避するためには、事業受託者からテナント保証を取る必要がありますが、その契約条件により賃料は、相場の80―85%になることを覚悟する必要があります。

B自力方式

土地所有者が自力で建設資金を調達し、建設、賃貸などの事業をとおして利益獲得を図る方式です。事業リスクはすべて自ら負うことになりますが、事業実施能力があれば、すべて自己の判断で行えるため、もっとも利益を獲得する可能性があるります。
さらに、賃貸料設定方式としては、固定家賃方式と、売り上げ歩合方式があります。
固定家賃方式は、契約した家賃を一定期間毎にテナントが支払う一般的な方式で、テナントがそこから直接的な収益を生まない、住宅、オフィスなどに適応されます。
売り上げ歩合方式は、小売店、飲食店など直接売り上げがカウントできる業種が集積する専門店ビルに見られる方式で、その店舗における売り上げの一定割合を賃料として受け取る方式です。一般的には、賃料の算定となる売り上げの最低基準を決めておき、それを超えた場合、売り上げに応じて賃料を支払う、固定プラス売り上げ歩合方式が多くみられます。この方式を採用する場合、ビルオーナーはテナントの売り上げを管理していく事が必要で、単なるビル賃貸業というより、個々のテナントに対し、売り上げを伸ばすコンサルや、共同の販売促進など、直営事業に近い専門知識を必要とします。


(3)等価交換方式

土地の一部を売却し、その対価として建物床を取得し、事業を行う方式です。 借入金が発生しないため、一般の土地所有者には、安心な事業です。 節税的には、土地を償却資産に変えるメリットはありますが、土地の簿価を引き継ぐため、事業開始後の減価償却の節税効果は薄くなります。 完成後の権利形態は、パートナーとなるデベロッパーか、そこから分譲床を取得したエンドユーザーとの共同所有となります。その所有形態としては、縦割り、横割の区分所有、共有の3パターンがあります。土地所有者が自分の持ち分を自由に使う場合は、縦割りの区分所有が適していますが、全体の建築計画には制約が出て来ます。自分の持ち分も一体のビルとしてテナントに賃貸する場合は、その他の所有形態を選択する方が、総合的な収益は上がるといえます。


(4)土地信託方式

信託銀行等が土地所有者から土地の信託を受け、建物の建設と運営を行う方式で、賃貸型と、処分型(分譲)があります。 賃貸型の場合、土地、建物は契約期間終了後、土地所有者に返還されます。事業資金は、信託銀行がすべて調達しますが、契約期間終了後、借入金の返済が完了していない場合は、土地所有者の負担となります。さらに、通常の借り入れ金利以外に、信託手数料が必要となります。 信託契約の時に受領する信託受益権証書を売却する方法が処分型です。


(5)直営方式

不動産を活用した直営事業としては、次のような手法があります。勿論リスクは増えますが、利益獲得チャンスも増えます。

@運営委託方式

ホテル、ゲームセンターなどで見られる方式で、建設したビルの運営を一式専門業者に任せる方式です。
細かい取り決めは、個々の契約により異なりますが、委託された専門業者が必要とする経費と、一定のマネージメントフィーを取り、残った利益を一定割合で建物所有者と分け合う方法が一般的です。先に延べた専門店ビルにおける売り上げ歩合方式より、オーナーのリスクは高いといえますが、信頼できる専門業者に任せてしまえば、オーナーは売り上げの管理程度で、それほどの専門知識は必要としません。

Aフランチャイズ方式

ホテル、コンビニエンスストアー、ファーストフードなど様々な業種で採用されている業態で、フランチャイザーとなる運営本部は、看板や、共通の販売促進、運営ノウハウ、資材供給などをするだけで、基本的には、フランチャイジーとなる建物オーナーの経営となります。この事業は、不動産を所有していなくても経営可能であるが、多角経営の一貫で、新規事業を展開していく場合、有効な事業方式といえます。

B会員制事業

ゴルフクラブ、リゾートクラブ、フィットネスクラブ、有料老人ホームなどに見られる方式で、不動産所有権の移転を伴わない分譲事業といえます。
入会に必要となる金額としては、用途、グレードにより、数千万単位から、数万円単位まで、様々です。
会員権の分譲によりイニシャルコストを回収しようとする事業スキームと、運営により回収するする考え方がありますが、バブル期におけるゴルフクラブ、リゾートクラブなどは前者による事業スキームで破綻した事業が数多く存在し、その選択には十分な検討を必要とします。


(6)事業手法の選択

事業者の持つ能力、事業動機、目的などに対し、今まで述べた事業方式の特性を比較し、もっとも適した手法の選択を試みてみます。
事業者が適切な経営判断力をもち、事業資金の調達能力があれば、自力方式で賃貸事業を進める事がもっとも望ましいと考えられます。優れたPMや、設計事務所、不動産仲介業者等にコンサルタントフィーを払っても、結果的に最小限のコストで、良質の建築が実現する可能性がありますし、事業者の意向が100%反映できます。
等価交換方式は、自己資金負担無しで実現可能な方式ですが、その資金源として、自己所有の土地の一部を譲渡する、という認識を持つ必要があります。土地が、建物という償却資産に変わり、減価償却をしながら、収入を得る、という考え方です。現状、住宅や店舗で自己使用しており、資金負担無しで新築、土地の高度利用をしようとする場合は、有効です。ただし、パートナーの意向が優先されることを認識する必要があります。
事業受託方式、及び土地信託方式は、土地、建物とも自己所有の形態で、相当な部分を専門企業に任せながら、事業を開始するという意味では、両者とも同様です。土地信託方式は、「信託法」に乗っ取り、認可を受けた信託銀行などが行える事業でしたが、2000年秋の法改正により、これらの規制が緩和され、認可を受けた事業者なら、誰でも行えるようになりました。また、信託期間中に発行される信託受益権証書は、自由に売買できるようになったため、事業開始後の選択肢も増加しました。信頼できるパートナーと組む事ができれば、事業リスクのかなりの部分はヘッジできます。自力方式が難しい状況にあれば、この方式のいずれかを選択する事がよいと思われます。
いずれの方式を採用するにしろ、パートナーとなる専門企業は、その事業により、ビジネスとして成立すると考えて参画するわけです。したがって、それぞれの立場をよく理解して、事業の推進を図ることが、結果的に、良好な事業とする事がでます。ただし、先に述べたように、パートナーに任せる部分が多ければ多いほど、委託者の収入額が減る事は、認識しなければなりません。



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