ビル事業計画の手引き
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形態規制


形態規制の主なものは、建物の高さに関する制限で、これまでは、斜線制限と、日影規制で規制されていました。
従来の斜線制限は、まず敷地境界線上での建物の高さを定め、敷地境界線から離れるほど建てることのできる高さが高くなるようになっています。斜線制限の主なものは、道路斜線、隣地斜線、北側斜線です。これら以外にも、各自治体が高度利用地区内で定める高度斜線などがありますが、考え方は同様です。個々の斜線制限をチェックし、制限のきついものが適用されます。
その結果、敷地境界から斜めにカットした建物が数多く出現し、デザインの自由性や、街並みの景観などを損なうことになっていました。
平成15年度の建築基準法の改正により、天空率という形態制限が導入され、建築物の特定部分の高さを制限するのではなく、建築物全体で従来の斜線制限と同様以上の天空率が確保されていれば、規制を満足するという性能規定を付与することになりました。
したがって、従来の斜線制限を満足している建築物は、改正後の法規を満足していることになりますし、新たに計画する場合は、特定の斜線制限毎に、従来の法規と、改正後の法規のどちらかを選べることになります。この形態規制の大幅な緩和により、従来よりも高く、効率のよい建築計画が可能になると言えます。
また、日影規制は、従来と同様で、建物が建つことによって生じる日影に対して、ある地点で一日の内、最大に落とせる日影時間が定められています。

(1)道路斜線制限(建築基準法55、56条、91条、別表第3、建築基準法施行令130〜135、153条)へ
(2)隣地斜線制限(建築基準法56条―1−2)へ
(3) 北側斜線制限(建築基準法55,56条、施行令135の4)へ
(4)天空率(建築基準法55,56条、施行令135の4)へ
(5)日影規制建築基準法55,56条、施行令135の4)へ

(1)道路斜線制限(建築基準法55、56条、91条、別表第3、建築基準法施行令130〜135、153条)

道路斜線とは、敷地境界線が道路に接している場合に適用される制限です。道路の反対側の境界線から、当該敷地側の上空に向かって、指定された勾配で斜面をつくります。その斜面と敷地で囲まれた領域が建築できる範囲です。用途地域別に指定されている斜線制限の数値を表に示します。

- 道路斜線 隣地斜線 北側斜線
用途地域 容積率 距離(L) 数値 数値 数値
第1種・第2種低層住居専用地域
田園住居地域
第1種中高層住居専用地域
第2種中高層住居専用地域
第1種住居専用地域
第2種住居専用地域
準住居地域
200%以下 20m 1.25 絶対高さ10m(12m) 5m+1.25
200%超え300%以下 25m 20m+1.25 10m+1.25
300%超え 30m なし
近隣商業地域
商業地域
400%以下 20m 1.5 31m+2.5
400%超え600%以下 25m
600%超え800%以下 30m
800%超え 35m
準工業地域
工業地域
工業専用地域
200%以下 20m 1.5 31m+2.5
200%超え300%以下 25m
300%超え 30m
無指定地域 200%以下 20m 1.5 31m+2.5
200%超え300%以下 25m
300%超え 30m

なお、この表中の距離とは、道路斜線が影響する範囲のことで、道路の反対側から表に示す距離を超える部分に対しては、道路斜線はかかりません。また、数値/1が、指定される勾配となります。
これに対して、以下のような緩和事項があります。
@建築物を道路境界線から後退して建築する場合は、後退した距離だけ敷地の反対側の道路境界線が後退したものとみなす事ができます。(建築基準法56条―2)
A道路を挟んで反対側に公園、水面、鉄道線路などがあるときには、それらの幅を加えた距離を道路幅員とみなすことができます。(建築基準法56条、施行令134条)
B幅員の異なる2以上の道路に接している場合は、広い方の道路境界線から、道路幅員の2倍かつ35m以内の範囲については、狭い道路も広い道路の幅員による制限が適用されます。また、この範囲を超える部分でも、狭い道路の中心から10mを超える範囲については、最も広い道路幅員を前面道路とみなすことができます。(建築基準法56条、施行令132条)

(2)隣地斜線制限(建築基準法56条―1−2)

隣地斜線制限とは、敷地境界線が隣地に接している場合に適用される制限です。敷地境界線上の高さの限界は直接与えられています。敷地内については、境界線上の高さ制限の上端から指定された勾配で斜面をつくります。その斜面と敷地で囲まれた領域が建築できる範囲です。用途地域別に指定されている斜線制限の数値を前表に示しています。
これに対して、以下のような緩和事項があります。
@建築物を隣地境界線から後退して建築する場合は、後退した距離だけ隣地境界線が後退したものとみなす事ができます。(建築基準法56条―1−2)
A敷地の地盤面が隣地の地盤面より1m以上低い場合は、高低差から1mを引き、残りの1/2だけ敷地の地盤面が高い位置にあるとみなします。(施行令135の3−1−2)
B隣地が公園、広場、水面等に接する場合は、それらの幅員の1/2だけ、外側に隣地境界線があるものとみなします。(施行令135の3−1−1)

(3) 北側斜線制限(建築基準法55,56条、施行令135の4)

第1種、2種低層住専、第1種、第2種中高層住専の用途地域において、少しでも北に面している敷地境界線に対して適用される制限です。境界線上の高さ制限の上端から指定された勾配で斜面をつくります。ただし、斜面の方向は南北軸に平行です(他の斜線制限は境界線に直角)。その斜面と敷地で囲まれた領域が建築できる範囲です。その数値を前表に示しています。
なお、敷地が道路に接している場合は、反対側の道路境界から表の数値を適用します。また、緩和事項としては、上記隣地斜線における緩和事項の、A、Bが同様に適用されます。
なお、第1種、2種低層住専地域に対しては、絶対高さの制限(10m又は、12m)がありますので、これ以上の高さは、許されません。

(4)天空率(建築基準法55,56条、施行令135の4)

天空率とは、ある測定点から見ることのできる天空(空)の内、建築物等に遮られることなく実際に見ることのできる範囲の割合をいいます。したがって、視界を遮るものが何一つない状況では、天空率100%となります。
その算定方法は、以下のように行います。
・測定点を中心として、その水平面上に半球(天球という)を想定します。
・この天球の表面に、測定点を投影の中心として建築物を投影します。
・次に、天球を水平面上に正投影します。この投影図を天空図といいます。
・天空図上の建築物の投影面積を、天空図全体の面積から引いて、天空図全体の面積で割った値が天空率となります。
これに対して、以下のように規定されています。
・天空率を算定する範囲は、従来の斜線制限が適用される範囲に限定します。
・斜線制限の勾配が異なる区域にまたがる場合や、2以上の道路に接していて、適用が異なる場合などは、その範囲毎に別々に計算を行い、比較を行います。
・斜線制限では、建築面積1/8以下のPHや、棟飾などは含みませんでしたが、天空率算定では、すべてを対象とします。
天空率を算定する位置(測定点)は、以下のように規定されています.
・道路斜線に対しては、道路の反対側の境界線上で、道路幅の1/2以下の間隔で等分割した分割点(両端点を含む)。
・隣地斜線に対しては、隣地境界線からの水平距離が、斜線勾配1.25地域では16m、斜線勾配2.5地域では、12.4m外側の線上を、前者で8m、後者で6.2mの間隔で、等分割した分割点(両端点を含む)
・北側斜線に対しては、隣地境界線から北側に向かっての水平距離が、低層住居専用地域では、4m外側の線上を、1m以下の間隔で等分割した分割点(両端点を含む)。中高層住居専用地域では、8m外側の線上を、2m以下の間隔で等分割した分割点(両端点を含む)。
・前面道路と敷地の地盤面が1m以上高い場合は、高低差から1mを引き、残りの1/2だけ測定点が高い位置にあるとみなします。この場合、敷地の地盤を含めて天空率の算定を行い、比較します。
・敷地の地盤の高低差が3mを超える場合は、接する位置の高低差が3m以内となるように敷地を区分します。
以上のような規定に基づき、各測定点毎の天空率を算定します。
そして、すべての想定点において、従来の斜線制限よりも、計画建物の天空率が大きければ、規制をクリアーすることになります。
PM-NETでは、構造システムとの提携により、天空率を含む斜線制限等の計算プログラム「LAB-S1」を提供しています。

(5)日影規制建築基準法55,56条、施行令135の4)

日影規制は、計画建物が一定の日に、一定の場所に作る影が、一定の時間をこれてはならないという規制です。以下にその規制内容を解説します。詳細は、建築基準法第56条の2、建築基準法施行令135条-4-2および4-3を参照してください。

@ 規制対象

用途地域のうち、商業地域、工業地域、工業専用地域においては、日影規制はかかりません。それ以外の地域において、地盤面からの高さが10mを超える建物(第1種、第2種低層住専地域に於いては、軒高が7mを超える建物または地階を除いた階数が3階以上の建物)が日影規制の対象となります。なお、屋上の階段室、機械室等で、水兵投影面積合計が、建築面積の1/8以内のものは、その部分の高さ5mまで、高さに算入しなくてよいことになっています。(施行令2−1−6−ロ)
また、計画建物が日影時間の制限の異なる区域にまたがる場合には、その建物の各部分が属している各地域毎に高さを測り、対象建築物になるかどうかを決めることになります。ただし、対象建築物になった場合には、建物全体が規制対象となります。(施行令135の4の3)
同一敷地内に2以上の建築物がある場合も同様で、これらの全部の建物を一つの建築物とみなし、どれか一つの建物が規制対象となれば、全部の建物が規制対象となります。(建築基準法59条の2−2)

A 規制対象時間

一定の日とは、冬至日真太陽日(一部の地域は中央標準時)による8時〜16時(一部の地域では9時〜15時)の間を示します。日影時間は、この一日の内で日差しが遮られていた時間の総量ですから、最大でも8時間(6時間)ということになります。

B 日影制限時間

計画建物の敷地境界線から、5m以上離れた場所の日影時間を、5時間未満、10m以上離れた場所の日影時間を3時間未満になるようにします。この5時間と3時間の組み合わせを日影規制時間と言います。日影規制時間の組み合わせには、この他に「4時間と2.5時間」「3時間と2時間」「2時間と1.5時間」があります。日影規制を適用する地域の風土や土地の利用状況等によって適正な規制時間が、地方自治体によって定められています。したがって、計画地の用途地域や容積率を確認するのと同様に、日影規制時間を確認する必要があります。

C 測定線

日影時間をチェックするためには、敷地境界線から5mおよび10m離れた線を作図します。この線を、5m測定線、10m測定線と呼びます。
敷地が、幅10m以下の道路、川などに接する場合には、敷地境界線はその幅の1/2だけ外側にあるものとみなします。幅が10mを超える場合には、反対側の境界線から敷地側に5m寄った線を敷地境界線とみなします。(施行令135の4−1−1)
そして、この測定線が日影時間の規制の異なる地域にまたがるときには、測定線が位置するそれぞれの地域の規制に応じて制限を受けることになります。したがって、計画地が日影規制対象区域外であっても、測定線が規制対象区域内にあれば、規制を受けることになります。(施行令135の4の3)

D 測定面

日影時間は、同じ場所でも測定する高さによって違います。日影時間は地盤面から4m(第一種、第2種低層住居専用地域では1.5m)の高さの平面でチェックすることになっています。この平面を測定面と呼びます。
但し、隣地の地盤面が1m以上高い場合には、その高低差から1m引いたものの1/2だけ敷地の地盤面が高いところにあるものとみなします。(施行令135の4の2−1−2)

E時刻日影図

確認申請図書の提出時に必要です。
冬至日に於いて、計画建物が測定面に作り出す各時刻の影の形状で、計画建物の影の影響がおよぶ範囲を確認できます。
ただし、これで直接に日影規制の合否を確認することはできません。
日影規制は「敷地の近隣に一定時間以上の日影を落とさないようにする」ということですから、「特定の時間に日影が落ちるかどうか」は、問題にされていません。
何時の日影が近隣に落ちても、その総和がある時間以下なら良いということになります。
日影図では、日影の生じる時間については、ある程度の傾向をつかむことができても、
「何時何分の間、日影になるか」といった、量的なチェックはできません。

F等時間日影図

測定面上で、対象となる建物による日影時間の中で、同じ値を持つ地点をつないだ曲線を等時間線と言います。計画地に対して規制されている2.5時間や4.0時間といった、日影規制時間の等時間線を使います。
等時間線は日影時間が直接表現されていますので、そのまま日影規則の合否を確認することができます。
等時間線は、地図の等高線と大変よく似ています。
山を示す等高線は、頂上に向かって海抜の低いものから高いものへと、順番に並んでいますが、等時間線もまた、建物に近づくに連れて、日影時間が短いものから長いものへと順序よく並んでいます。
つまり、通常は5時間の等時間線の外側では、5時間以上の日影時間を持つ地点は無いと言うことになります。
そこで、日影規制時間が「5.0時間,3.0時間」なら、5時間と3時間の等時間線を作成し、5時間の等時間線と5mの測定線の関係、3時間の等時間線と10mの測定線の関係をそれぞれ調べます。
各々の等時間線が各々の測定線の内に完全に入っていれば、日影規制をクリアしているということになります。

G日影チャート

測定線上に於ける日影時間です。
前記の等時間線だけでは、日影規制の合否の判断が難しい場合(例えば、等時間線と測定線が重なって見えるようなとき)に利用します。
一般的に、等時間線よりも誤差が少なく計算結果の確認も楽に行うことができます。



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