ビル事業計画の手引き
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立地評価


ビル事業の対象となる用途が要求する機能を、計画地が有しているか否かを図る作業が、計画地の持つ立地特性の評価です。
この評価には、定量的にはかれる要素と、質的な感性を必要とされる客観的要素がありますが、できるだけ定量的に把握できることが望まれます。
しかし、すべてを定量化するために、膨大な作業を必要とする調査をかけても、計画作業の中で是非とも必要とする場合を除いて、コストパフォーマンスを考えると、初動調査としては無駄になる可能性があります。したがって、公官庁等が行って、一般的に入手できる調査データを、効率的に使うことが大切です。
また、立地評価の考え方として参考にしたいことは、土地の価格を算定する時の土地価格比準法です。
これは、不動産鑑定士などが、土地の鑑定評価を行う一つの手法として、国や都道府県が行う公示地価や基準地価に対して、評価する土地を比較する方法です。この時、使用される土地価格比準表には、評価する土地の性格によって、それぞれ格差率が設定されており、客観的に土地価格が評価できるような基準が示されています。しかし,不動産鑑定評価は、その土地の価格を算定するための手法であり、ビル事業計画の対象となるすべての用途を、均一的に評価する場合には、そのまま使う訳にはいきません。
不動産鑑定の評価項目は、大きく商業系と住宅系により分かれます。商業系は、その業種が対象とする顧客を、いかに呼び込みやすく、収益が上げられるかが最大要因となるのに対し、住宅系は、その住人の居住性や利便性が重要になるからです。しかし、ビル事業計画の立地評価としては、当初から両者に色分けすることは避けた方がいいと思われます。都心の商業地でも、居住環境を確保した建築計画により、利便性を売り文句にした住宅系の開発は、十分な可能性を持つからです。
ここでは、ビル事業計画の候補事業として選択した商業系、住宅系両者に共通する評価項目、片方のみに必要な評価項目を挙げ、必要ない場合は評価対象から外すことにより採点して行くこととします。その評価基準を示した表が、立地比準表です。

この立地批准表に、計画地の持つ性能をフィルターにかけ、立地可能業種を評価した結果を示した表が立地可能業種選定表です。 PM-NETでは、計画地の立地条件を入力することにより、立地可能業種を選定するプログラム PM-M を提供しています。

PM-M 立地可能業種選定プログラム


(1)市場要因
計画地周辺の居住人口や、就業者、学生の数などのマーケット量を把握することであり、商業系の立地性に関連する要因としては重要なポイントですが、住居系については不要です。
これに関するデータとしては、様々な指標がありますが、もっとも便利で、計画地固有のデータとして入手できる物は、総務庁統計局の出している地域メッシュデータです。
これは、5年に1回調査が行われている国勢調査と、企業、事業所統計調査に基づいて、1kmメッシュ(人口集中エリアに関しては500m)ごとのデータとして入手できます。
したがって、おおむね計画地から500m(人口集中エリアに関しては250m)単位の居住人口(夜間人口)と、従業者、学生などの人口(昼間人口)を得ることができ、初期の調査における計画地周辺のマーケットボリュームを把握するのには便利です。
また、5年ごとのトレンドを見ることも可能であり、地域の発展性を探ることもできます。
国土地理院の地図により、計画地の属するメッシュ番号を確認し、統計局の閲覧室に備え付けの資料により希望するデータを入手できます。


総務省統計局

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(2)地域要因

@駅からの距離
住宅系では通勤通学時間、商業系では顧客の来街手段として最寄り駅からの距離が重要です。人間の歩く速度を分速80mで換算すると直線距離で、800mは、徒歩10分圏と算定でます。徒歩圏以上の距離にある場合は、バス、自転車などの補助手段を使うことになりますが、距離によって客観的に評価します。
また、駅とは、鉄道などの大量輸送機関の駅を想定していますが、地方などの都市によってはバスなどの方が便数もあり便利な場合があります。その場合は、バスの停留所を駅として算定してもかまいません。

A駅の性格
最寄りとなる駅が、地域の中心に属しているか否か、交通の結節点となるターミナル性を有しているか、単なる一支線の通過駅かの評価も必要です。駅の大きさを測る資料としては、駅乗降客数があり、東京圏の例で言うと、渋谷、新宿、池袋などの都心型ターミナル駅で1日の乗降客は200〜300万人、船橋、柏などの郊外型ターミナル駅で20〜30万人、郊外型ローカル駅で2〜3万人程度が目安です。ただし、地方都市において、鉄道などが発達していない場合は、バスが大量輸送の中心をなしており、この限りではない事は、前述のとおりです。

B商業地への距離
住宅系では生活利便性の評価、商業系では既存の来街者を期待できるか否かの評価として、最寄りの商業地との距離を算定します。周辺の土地利用状況、歩行者の通行量などにより評価を行い、商業地に属していれば、算定距離は0となります。
同じ商業系でも大規模な場合は、単独立地として集客が可能であり、Dの前面道路との関係の方が重要であり、この評価は、あまり関係はなくなります。

C商業地の性格
最寄りと算定した商業地の性格を把握します。
周辺地域の商業上の核となっている商業地か、近隣のみを対象としている商店街か、または、ロードサイド型の車による来客を想定したショッピングセンタータイプかなどになります。

D前面道路の幅員
住宅系では、騒音などの環境面でマイナスになるため、幹線道路などあまり大きな幅員の前面道路の評価は低くなります。また、商業系でも、小規模商業施設は、大規模商業に付帯する場合を除いて、歩行者が安心して歩ける街区を形成する程度の幅員の方が評価は高くなります。一方で、大規模商業施設の生命線は、車のアプローチ性であり、商業の規模にもよるが、最低でも8m以上の前面道路は必要です。

E前面道路のアプローチ性
前面道路の系統性や連続性を把握します。
道路には、都市間や、高速道路のインターチェンジを結ぶ主要幹線道路や、地域の居住者が利用する生活幹線道路、及びその支線など、いくつかのヒエラルキーがあります。これらの道路と、計画地の関係を捉え、各方面からの車によるアプローチの性能に対する評価をします。これには、各道路の車線数や、時間帯毎の渋滞度合いなどを加味した、時間距離として、把握する事が望まれます。
また、計画地の前面に接する道路に対しては、その性格(時間帯毎の交通量、通過する車の種類、歩道の状況など)を分析します。交通量を数量的に把握するには、各管轄の警察署が行っている交通量調査があります。
また、将来に対する変化を知るには、市役所が発行している都市計画図が参考になります。
これには、都市計画決定されている、新規の道路や、拡幅計画が記載されています。しかし、その実現には、市の財政状況や、用地買収の進捗により、スケジュールがまちまちであり、詳細は、市役所の道路課などに問い合わせる必要があります。
都市計画図

F居住環境
日照、通風、時間帯毎(特に夜間)の騒音状況、公園、緑などの自然環境、公害を出すような施設の有無、幼稚園、小学校、病院、官公庁などの生活支援施設との距離など、住宅系施設に対する評価をする場合に必要です。

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(3)画地要因

@用途地域
都市計画法により我が国の地域は、都市計画区域内と都市計画区域外に、大きく2分されています。都市計画区域内では、市街化地域と、市街化調整地域、及び無指定地域の3地域に分かれています。このうち、市街化調整地域は、5ha以上の大規模な開発や、農業などに従事する既存の住宅以外には、新規の建築が見とめられない地域であり、個別に、役所との調整が必要です。無指定地域は、立地用途に対する規制はありませんが、ビル事業としては、不適な土地です。
市街化地域においては、基本的に立地する用途を規制する地域地区が定められています。
地域地区は、市街化地域における全体像の中で、ゾーンごとの役割を明確にし、地域地区それぞれの役割、目的に応じ、そこに立地すべき建物に一定の制限を課し、規制する事により、都市機能の維持増進と、適正な都市環境の保持を図ろうとするものです。
地域地区には、基本的なゾーニングとして、12の用途地域が設定され、立地可能な建物用途を規制しています。したがって、計画地が所在する市区町村の都市計画図を確認し、計画地がどのような地域地区に属し、用途規制を把握する事は、必須の事です。
ビル事業対象用途に対する用途地域別の用途規制は、用途地域表にしめしています。
用途規制
ただし、計画地が2以上の用途地域にまたがる場合は、敷地面積の過半を占める用途地域に属するものとして扱われます。
都市計画図

A敷地面積と容積率
用途地域ごとに、敷地面積の何倍まで建築が可能かという容積率が決められています。(ただし、敷地に対し、2以上の容積率がある場合は、その加重平均を求めます。)
そして、敷地面積と、容積率により、建築可能最大延べ床面積が算出されます。業種により、必要とする最低延床面積や、建築プラン上の効率性により、最低必要な敷地規模が想定されます。
各階ごとの建築面積などは、企画段階で行う高さ制限などを考慮した建築計画のボリュームスタディーによりより詳細な数値が得られることになりますが、経験的な必要面積を初期の段階で把握し、評価を行うことで、作業の効率性を高めることが必要です。
都市計画図

B間口、奥行きの関係
前面道路に接する間口の大きさは、敷地規模による奥行きとの関係にもよりますが、原則的には広いほど良好です。立地業種によっては、歩行者や、車のアプローチ機能を考慮し、最低限度の必要間口が想定されます。
また、接道条件としては、1方向、1方向(角地、または前後)3方向、4方向があり、接道距離が、長いほど評価は高くなりますが、接する道路との関係が重要になります。接する道路の性格はどのようなものか、道路には、歩道が整備されており、安全で、快適な歩行者の通行が可能か、前面道路から、敷地の認識度はどうか、等の前面道路の質的要素で左右されます。
また、住宅系の場合は、東西軸、つまり長手方向に対する方位で南向きが、最も評価が高くなります。

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